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大正生まれの夫は女房や娘に甘い言葉は使わなかった。一貫して男子たる者の姿勢を崩さず、高笑いするなどの隙をみせなかった。
気にいらないことがあると、機嫌を損ねてすぐ口を閉ざす。が、本当は我が儘の甘ったれで、子供が駄々をこねているのと同じだ。
昨年十月十七日、背中の腫瘍を切開し、組織をとって検査し、病名を確かめることになった。担当医が日帰りと言うのに、本人の希望で入院させてもらう。当日、二十一時二十分、彼からメールが入った。『麻酔のおかげで痛くも痒くもない。これから寝る』続いて二十一時三十分『good night my sweet heart』二十二時十分『笑って泣いちゃいました。お休みなさい』この返事を打つまでの四十分間、私は傍に行きたい衝動をこらえ、涙をこぼしながら部屋の中を歩き回っていました。
四ヵ月後に彼は肺癌で姿を消しました。今はメールに遺された言葉を七日ごとに充電し、宝物として永久に保存していくつもりです。